深尾 幽石
山畑の 土かちと鳴る 鍬始め
悲しみに 耐えいる雪の 椿とも
たのしくて 雑木林の 落ち葉踏む
太田 露萩
放棄せし みかんにひよの むらがりて
日々に来る 目白も今は 我が友に
山茶花に 目白の群れの いつも来る
初日指す 庭に一羽の あおじくる
佐藤 玲子
立春や 小雪ちらつき 春寒し
冬の夜 時計の針の 動き見る
武藤 素心
初詣で 絵馬買う列の 中にあり
年賀状 のみあかずみて 一日暮れ
久保田 蒼石
年玉の 相場を孫や 子等にきく
還暦に 胎毛筆の 試筆かな
大塚 呉峰
ゆづりはに 同じ思いの 夫婦かな
(ゆづり葉は新葉がととのってから、旧葉が、
落ちます。そのため親子草とも呼ばれていま
す。子供の成長をひたすら祈って創った句)
早春の 山道ゆけば ふきのとう
夜もすがら 恋い猫鳴きて 眠られず
雪に散る 紅き山茶花 二三片
氷踏む 音の楽しく 芹を摘む
れんぎょうの 春待ちきれず 雪に咲く
武藤 素心
別れ来て 二十余念の 友もあり
年賀に添へし 近況うれし
ストーブを 囲む小さき 長靴の
乾く暇なく 雪遊びに出ず
深尾 幽石
正月に 生けると妻と 切りに来し
梅の蕾は ふくらみてあり
風立てば 一気に舞い散る 銀杏の葉
見上ぐるわれの 面を撫で打つ
野間口 大嘘
明けそめし 東の山の 頂きを
鳥飛びゆく 新年の朝
朝起きの 目安にせんと 窓側の
雨戸一枚 閉め残しおく
大塚 呉峰
枯れしとも 見し細枝の 今日昨日
風はらみつつ 力みちくる
谷川の せせらぎすがし 小雀が
呼びかわしゆく 雪晴れの朝
渡辺 小百合
チョコレート だけが知ってる 片思い
幼子へ 波紋大きい コマーシャル
小旅行 女に荷物 多すぎる
もっと近く 近くと思う 好きなひと
来客へ 鏡も見ない 歳となり
吐き出せぬ 不満が重く 胃にたまる
マラソンは 独りポッチを ひた走る
堀内 優子
テレビにも 決まる家族の 指定席
野次馬の あと追いかける 胸騒ぎ
さみしさに 誘い出された 冬の月
滝口 太一
長いものに 巻かれて守る 小さい城
屈辱に 耐える奥歯が 音をたて
肩書も 背広も脱いだ 欠け茶碗
こぼせない 愚痴ストレスが 胸に積む
コネのない 顔吊り皮に ゆれている
水越 春虹
割り引いて 大風呂敷の 中を読み
スランプへ 勝利の女神 うろたえる
冷える手に 掬えばサラリ にげる砂
交流が 途切れ誤解の まま果てる
迷いから さめたひとりの Uターン
おふくろの 味売る店の 灯かりがぬくい
傷口が 疼き他人に 戻れない
人間も 尻尾をふって おちぶれる
勝田 真人
ごまかしの 利かない足へ 歳をしり
立直り 黙って駒を 並び替え
福田 博子
迷い抜く 道が奈落へ つづいてた
セールスへ 乗る気のガスを 消してくる
わびしさが ジーンと染み込む 独り酒
スリッパを 余分に置いて 独り住む
相槌を 打ったばかりに 乗る話
出稼ぎの 家が恋しい 独り酒
大塚 呉峰
雪柳 ゆらりいさかい など知らぬ
荒くれの 年輪きざむ 生きた指
財産の 半分にある 妻の汗
満腹の 胃に今日生きた 証しある
雑踏を 離れたあとの 人恋し
母の背の カーブに苦労 のしかかり
ブーム去り ルーズソックス あくびする
転任の 公舎役職 持ち込まれ
一枚の 紙にもしみじみ 裏表
盆栽の 蕾かぞえる ちゃんちゃんこ
喜怒哀楽 むき出しにして お人好し
ひと言の 毒で凶器に 変わる舌
生涯を 溶け合う胸を 探す旅
許す気が 鏡の中で 髪を梳く
雪払い やった竹から はじかれる
自我という ブロック積みの 脆い城
独り旅 わびとロマンの 夢があり