墨華






GA−002  わたしは長い歳月上にのびることばかり考えてきた
        土の中深く根を張ることを忘れていたころです 
        ヒョロヒョロと幹ばかり高くのびて雑然と枝葉がひろがるようになった時
        幹や枝葉の重みに耐えきれない根の弱さに 
        わたしは初めて気がついたのです 
        気がついたときには手おくれでした
        手おくれとわかったとき私は思いきって枝葉をおとすことにしました
        土の中のわたしの弱い根と細い幹に支えられるだけのわずかな枝を残して
        あとはばっさりと切り捨てました
        それは根の弱い幹のほそい力のない者が 
        なんとか自分を守りながら生きてゆくための消極的な
        しかもそれなりに勇気のいる生活の知恵でした  大塚呉峰書